奈良地方裁判所 昭和53年(ワ)191号 判決 1980年8月29日
原告 木本律雄
右訴訟代理人弁護士 吉田恒俊
被告 飯田年行
<ほか二名>
右被告三名訴訟代理人弁護士 辻中栄太郎
被告 植田菊枝
右訴訟代理人弁護士 葛城健二
主文
一、被告飯田、同島田および同岩本は、別紙第一目録記載の(一)土地と同目録記載の(三)もしくは(六)の各土地との境界線上の、別紙図面の青矢印で示す位置に設置されている木杭二本およびその他それに取付けられたものからなる障害物を除去せよ。
二、被告飯田、同島田および同岩本は、別紙第二目録記載の通路に対する原告の通行を妨害してはならない。
三、被告飯田、同島田および同岩本は、各自原告に対し、金五八一、〇〇〇円およびこれに対する昭和五三年八月二三日から完済まで年五分の割合の金員を支払え。
四、被告植田に対する関係において、原告が別紙第二目録記載の通路を通行する権利を有することを確認する。
五、原告のその余の請求を棄却する。
六、訴訟費用は、その七分の六を被告飯田、同島田および同岩本の連帯負担とし、その七分の一を被告植田の負担とする。
事実
第一、当事者の申立
一、請求の趣旨
(一) 被告飯田、同島田および同岩本は、別紙第一目録記載の(一)の土地と同目録記載の(三)もしくは(六)の各土地との境界線上の別紙図面の青矢印の位置に設置した木杭二本その他の障害物を取除け。
(二) 被告飯田、同島田および同岩本は、別紙第二目録記載の通路に対する原告の通行を妨害してはならない。
(三) 被告らは、各自原告に対し金一、四三二、五〇〇円およびこれに対する昭和五三年八月二三日から完済まで年五分の割合の金員を支払え。
(四) 被告植田は、原告に対し、原告が別紙第二目録記載の通路を通行する権利を有することを確認する。
(五) 訴訟費用は被告らの負担とする。
二、請求の趣旨に対する答弁
(一) 原告の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
第二、当事者の主張
一、請求の原因
(一) 原告は第一目録(一)の土地を、被告飯田は同目録(六)の土地を、同島田は同目録(五)の土地を、同岩本は同目録(二)の土地を、同植田は同目録(三)の土地を、それぞれ所有している。右各土地の位置関係は別紙図面のとおりである。
(二) 右各土地の間には、別紙第二目録および同図面のとおり、原告所有の第一目録の(一)の土地(以下原告地という。)から市道に至る幅四メートルの通路が設置され、私道として一般に通行の用に供されており、その通路(以下本件通路という。)東半分は被告植田所有の第一目録(三)の土地であり、西半分は、被告飯田所有の同目録(六)の土地、同島田所有の同目録(五)の土地、同岩本所有の同目録(二)の土地および訴外桜本義次、同桜本悦子共有の同目録(四)の土地の各東側端の線から西へ幅二米の部分である。
(三) 第一目録の各土地は、分筆前は桜井市大字上之庄一三九番田一〇七一平方米(以下旧一三九番地という。)であり、原告と被告植田の亡夫である訴外亡植田伊太郎は、昭和五〇年一一月頃、右旧一三九番地を、前所有者訴外森重男より共同で買受けたものであるが、その後原告と植田伊太郎は、旧一三九番地を分割し、原告は原告地を取得し、植田伊太郎はその余の部分を取得した。
(四) そして、旧一三九番地は、昭和五〇年一二月二三日付で、原告地の部分が同番一田二九八平方米、植田伊太郎取得部分が同番二田七七二平方米(以下旧一三九番二土地という。)とに分筆された。(なお、右各土地ともその後地目が宅地に変更された。)
(五) 右分割の際、原告地が袋地となるため、訴外植田伊太郎は原告に対し、同人取得の旧一三九番二土地内の本件通路部分に四メートル幅の私道を設置し、原告の無償通行を認めることを約束した。
(六) その後旧一三九番二土地は、更に同番二ないし一〇に分筆されており、その同番二ないし六が第一目録の(二)ないし(六)の土地である。そのうち第一目録(二)の土地は昭和五一年一〇月二七日付で被告岩本に、第一目録(五)の土地は同年一一月九日付で被告島田に、それぞれ訴外植田伊太郎から売渡され、同被告らの所有となった。
訴外植田伊太郎は、昭和五二年二月一三日死亡し、第一目録(三)(四)(六)の各土地は、被告植田が相続によりその所有権を取得した。そして、被告植田は、同(四)の土地を昭和五二年一二月二〇日付で訴外桜本義次、同桜本悦子に売渡し、右両名の共有となり、また同(六)の土地を被告飯田へ昭和五二年一〇月二五日付で売渡し、同被告の所有となった。同(三)の土地は、被告植田がそのまま所有して、現在に至っている。
(七) 右のように、第一目録の各土地は、もとは旧一三九番地の一筆の土地であったもので、それが分割されたものであり、その分割によって原告地は袋地になったのであるから、民法二一三条により、原告は、他の分割者の所有地である本件通路につき無償で通行する権利を有するものである。
(八) しかるに、被告飯田、同島田、同岩本の三名は、昭和五二年三月中旬頃、別紙図面の青矢印の個所に木杭二本を打ちこみ、それに横板を張るなどして、本件通路に対する原告の通行を妨害している。
また、被告植田も、本件通路に対する原告の通行権を争っている。
そこで、被告飯田、同島田、同岩本に対しては、請求の趣旨(一)(二)のとおり、本件通路上の障害物の除去と原告の通行の妨害禁止を、被告植田に対しては、請求の趣旨(四)のとおり、本件通路に対する原告の通行権の確認を、求める。
(九) 原告は、原告地に自宅を建築すべく、昭和五二年一月末頃、訴外尾上工務店に工事を依頼し、建築確認も得ていたが、被告らの右のような本件通路の通行妨害のため、建築工事に着工することができず、結局原告は、別の土地に自宅を建築しなければならなかった。
そのために原告の蒙った損害は、次のとおりである。
(イ) 無駄になった建築確認申請費用
一四〇、〇〇〇円
(ロ) 原告地を利用できないでいることによる損失として、原告地の時価一五〇〇万円に対する年五分の割合の金員の昭和五二年四月一日から昭和五三年一二月末日まで二一ヵ月分一、三一二、五〇〇円
これは、右被告らの共同不法行為によるものであるから、被告らに対し、損害賠償として、請求の趣旨(三)のとおり、右損害額合計一、四五二、五〇〇円のうち一、四三二、五〇〇円およびこれに対する訴状送達の翌日である昭和五三年八月二三日から完済まで年五分の割合の金員を各自支払うことを求める。
二、請求原因に対する答弁
(一) 被告飯田、同島田および同岩本
(1) 請求原因(一)は認める。
(2) 同(二)のうち、幅四メートルの私道が存在するという点は否認するが、その余の事実は認める。
(3) 同(三)(四)は認める。
(4) 同(五)は不知。
(5) 同(六)は認める。
(6) 同(七)は争う。
原告が、袋地所有者として囲繞地通行権を有するとしても、民法二一一条により、通行の場所および方法については、通行権を有する者のために必要にして、かつ囲繞地のために損害最も少きものを選ぶべきであるが、原告地の利用のためには、通路として二メートルの幅があれば十分であり、本件通路のうち東半分の被告植田所有地の部分にすでに二メートル幅の通路が存在しているのであるから、それ以上に他の被告ら所有地にまで通路を広げることは許されない。
(7) 請求原因(八)は否認する。
(8) 同(九)は不知。
(二) 被告植田
(1) 請求原因(一)は認める。
(2) 同(二)は認める。
(3) 同(三)は否認する。
原告と訴外植田伊太郎が旧一三九番地を共同で買受けたのではなく、請求原因(四)のとおり分筆がなされた後、その旧一三九番二土地を、訴外植田伊太郎が昭和五一年四月二一日に訴外森重男から買受けたものであり、原告は、同じく分筆された後に、原告地を、同月二五日に、同訴外人から買受けたものであって、分筆後の各土地をそれぞれ別個に買受けたものである。
(4) 請求原因(四)は認める。
(5) 同(五)は否認する。
(6) 同(六)は認める。
(7) 同(七)のうち、原告が本件通路について通行権を有することは認めるが、その通行権が民法二一三条によるもので、無償であることは否認する。すなわち、本件通路のうち東半分の被告植田所有の第一目録(三)の土地について原告が通行権を有することは認める。
また、被告植田もしくは訴外植田伊太郎が、被告飯田、同島田、同岩本らに対し、各分譲地を売渡す際に、各土地の東端に、幅二メートルの私道部分を含むものとして売渡しているのであるから、右被告らの各所有地のうち、本件通路西半分にあたる部分は、道路として使用されるべきものである。従って、結果的には、原告が、本件通路部分全部につき、通行権を有することになるが、前述の売買の経緯のとおり、原告は、すでに分筆された後の原告地を買受けたものであって、共有物の分割によって生じた袋地ではないから民法二一三条一項の適用はないし、また、前所有者訴外森重男と訴外植田伊太郎との間では、土地の所有者がその土地の一部を譲渡したことになるので同条二項の適用はあるが、原告は、訴外植田伊太郎が訴外森から旧一三九番二土地を買受けた後に、原告地を取得したのであるから、原告については同条二項の適用はなく、かつ、民法二一三条は特定承継人には適用されない。このように、民法二一三条による通行権ではないから、少くとも本件通路のうち、被告飯田、同島田、同岩本ら所有の、西半分の部分については、通行権はあるにしても、無償ではない。
(8) 請求原因(八)は争う。
被告植田は、他の被告らが木杭を打ちこんだことについて何ら関与しておらず、また、原告の通行を妨害したこともない。
(9) 同(九)は不知。
第三、証拠《省略》
理由
第一、争のない事実と本件の争点
一、請求原因(一)の事実は当事者間に争いがない。
二、同(二)の事実は、被告植田との間では当事者間に争がなく、また、その余の被告らとの間においても、四メートル幅の通路が設置されているという点を除き争がない。
三、同(四)(六)の事実は当事者間に争がない。
四、原告地が、公路に接しておらず、いわゆる袋地であることは、被告らにおいて明らかに争っていないから、これを自白したものとみなす。
五、右争のない事実から明らかなように、第一目録の各土地を含む別紙図面の各土地、すなわち一三九番の一ないし一〇の各土地は、もとは訴外森重男所有の旧一三九番地として一筆の土地であったもので、それが現在のとおり分筆されたものであるが、右一三九番一ないし一〇の各土地のうち、原告地を除くその余の土地は、もとは訴外亡植田伊太郎所有の旧一三九番二として一筆の土地であったもので、その当時においては、原告地と同訴外人所有の旧一三九番二土地の二筆の土地からなっていたものである。
原告は、原告地から市道へ至る通路として、その旧一三九番二土地に、幅員四メートルの本件通路についての通行権を主張するものであるが、本件通路のうち東半分の幅員二メートルの部分は被告植田所有の一三九番三の土地であり、この土地について原告が通行権を有することは、同被告も争っていない。従って、問題は、本件通路の西半分、すなわち被告飯田、同島田および同岩本の各所有地についての原告の通行権の有無ということになる。
第二、本件各土地の沿革と所有権移転の経緯
《証拠省略》を綜合すると、次のような事実が認められる。
(一) 原告と訴外亡植田伊太郎の両名は、昭和五〇年八月頃、訴外森重男から、同人所有の旧一三九番地を、そのうち一〇〇坪は原告が自宅建築用地として取得し、残りは右伊太郎が建売分譲用の土地とすることにして、共同で買取ることにして、同年一〇月初頃、手付金三〇〇万円を支払って、売買契約を締結した。
なお、そのときに作成された契約書では、買主の名義は、原告と右訴外植田伊太郎の妻である被告植田菊枝の連名になっていた。
(二) その後訴外植田伊太郎からの申入により、訴外森は、旧一三九番地を昭和五〇年一二月二三日付で、一三九番一と旧一三九番二の二筆に分筆した。そして、そのうち一三九番一の土地、すなわち原告地について、昭和五一年一月二五日付で、あらためて同人を売主、原告を買主とする売買契約書を作成し、原告は、原告地分の代金として、右手付金も含めて、同年四月二〇日までに合計一〇〇〇万円を支払った。
(三) 更に、原告と訴外植田伊太郎との間で、旧一三九番地をどのように分割するかを協議したうえ、原告が南側の、公道からは奥の方になる一〇〇坪分の土地を取得し、その余を伊太郎が取得することになり、その結果袋地となる原告地および分譲予定の右伊太郎取得地のため共同の通路として、伊太郎取得地の中に、本件通路の位置に巾四メートルの通路を設けることにした。
(四) 原告地については、昭和五一年四月二五日売買を原因として同年九月一四日付で原告名義に所有権移転登記がなされ、旧一三九番二の土地については、同年四月二一日売買を原因として、同月二三日付で訴外植田伊太郎の名義に所有権移転登記がなされた。
(五) 訴外植田伊太郎は、旧一三九番二の土地を、昭和五一年四月二八日付で、東西に二分して、東側を一三九番三、西側を一三九番二の二筆の土地に分筆し、別紙図面のように八区画の分譲用地に区分し、そのうち西側の四区画にあたる右分筆後の一三九番二を、更に同年一〇月二〇日付で、一三九番二、四、五、六の四筆に分筆し、その一三九番二、五、六を、それぞれ被告岩本、同島田、同飯田に分譲し、右各被告らが所有することになった。その各売買の際、訴外植田伊太郎は、右被告らに対し、各分譲地取得者は、中央寄りの六尺幅の土地を出し合って、中央に共同の通路を作ること、従って、右被告らについていえば、それぞれ各所有地のうち、本件通路の西半分にあたる幅約二メートルの部分をその通路用地として提供してもらうことになる旨説明指示し、右被告らもこれを承諾のうえ、右各土地を買受けた。そのため、被告岩本、同島田、およびその後別に一三九番四の土地を買受けた訴外桜本義次、同桜本悦子らは、いずれも各所有地に家屋を建築したが、本件通路部分を空地として残して、それより西の部分に建物が位置するよう建築した。
(六) 訴外植田伊太郎は、昭和五二年二月一三日に死亡し、旧一三九番二の土地のうち、同人がすでに被告飯田、同島田および同岩本に分譲した土地以外の部分は、妻である被告植田菊枝が相続した。(なお、右被告飯田が買受けた土地についても、実際の売買は伊太郎との間で行われたが、登記簿上は、一旦被告植田菊枝名義に相続による所有権移転登記がなされたうえ、同被告から昭和五二年一〇月二五日売買を原因として被告飯田へ所有権移転登記がなされている。)そして、被告植田菊枝は、更に残りの土地を分譲するため、旧一三九番二を前述のとおり東西に二分したその東半分である一三九番三の土地について、昭和五二年一二月一二日、そのうち各取得者が前述のように道路用地として提供することになる中央寄りの二メートル幅の部分をあらかじめ除外し、その残りを別紙図面の東側四区画に相当する一三九番七ないし一〇の四筆分筆した。その結果道路部分の土地として除外した本件通路の東半分にあたる土地が、現在の一三九番三として同被告の所有のままに残ることになった。
(七) 以上の経緯により、結局現在は、旧一三九番地が別紙図面のような位置と区画に分筆されているのであるが、そのうち本件通路にあたる部分は、両側の八区画の各土地の中間に挾まれた形で、その部分は通路状の空地として残っており、現実にその周辺居住者の通行の用に供されており、実際上道路として使用されている。
第三、本件通路に対する原告の通行権の有無
一、前述の本件各土地の沿革および所有権移転の経過によって明らかなように、旧一三九番地は、先づその所有者であった訴外森重男によって、原告地と旧一三九番二とに分筆されたうえ、それぞれ同訴外人から原告と訴外植田伊太郎に譲渡されたものである。そして、原告地が袋地であることは前述のとおりであり、被告らの各土地が、原告地から公路である市道に至るまでの囲繞地にあたることは明らかであるから、償金の要否は別として、単に通行権の問題として考えれば、原告は、民法二一〇条か同法二一三条のいずれかによって、囲繞地通行権を有することになる。なお、原告は、民法二一三条による通行権を主張するのに対し、被告植田は民法二一三条の適用はない旨争っているが、前述のように、旧一三九番地は、先に原告地と旧一三九番二の土地とに分筆されてから譲渡されたことになるから、共有分割ではない(もっとも、一旦共同で買受ける形で買主連名の契約書が作成されたことは前述のとおりであるが、結局それは前述の経緯で、先に分筆してから、各自が分筆後の各土地を別個に買受ける形に変更したものと見なければならない。)けれども、民法二一三条二項の一部譲渡の場合にあたるものと認められる。本件の場合、原告もしくは訴外植田伊太郎に譲渡される前に分筆されているから、土地の一部が譲渡されて袋地が生じた場合ともいえないけれども、民法二一三条二項は、厳密な意味での土地の一部の譲渡に限らず、同一所有者に属する数筆の土地の一部が譲渡された結果袋地を生じた場合にも適用されるものである。すなわち、一筆の土地が分筆されても、同一人の所有に属する間は袋地を生ずるわけではなく、分筆された一部が他の所有者に帰属するなどして、囲繞地の所有者と異なることによってはじめて袋地となるのであるから、本件のように、分筆された後にその一方の土地が譲渡された結果他方の土地が袋地となった場合も、民法二一三条二項の適用を受けることになる(最判昭和四四年一一月一三日。判例時報五八二号六五頁)。従って、昭和五一年一月二五日(甲第一号証の売買契約書の日付)に原告地が原告に譲渡されたときに、原告地は袋地となり、原告は、旧一三九番二の土地に対する民法二一三条の囲繞地通行権を取得したことになる。もっとも、登記の日、もしくは、登記原因の日付によれば、原告地より先に旧一三九番二土地が訴外植田伊太郎に譲渡されているので、そのときに原告地が袋地となったことになり、訴外森重男と同植田伊太郎が袋地を生ずるときの譲渡の当事者であって、原告は、その後に訴外森から原告地を譲受けた袋地の特定承継人ということになる。また、被告らは、いずれも囲繞地である旧一三九番二の土地の一部を、更に分筆のうえ、訴外植田伊太郎から承継取得したものであり、そのうち、被告植田については相続による包括承継であるが、その他の被告らは、いずれも特定承継である。民法二一三条の通行権が分割もしくは譲渡の当事者のみに限られるか、それとも、その者から袋地あるいは囲繞地を譲受けた特定承継人にも適用されるかについては争のあるところであるが、この囲繞地通行権は、袋地であることによって当然に生ずる権利として、袋地所有権の内容をなし、その所有権と不可分の関係にあるから、袋地所有権の移転に当然随伴すべきものであり、かつその登記をなす方法もないので、登記なくして第三者に対抗し得るものと見るべきであり、また、袋地もしくは囲繞地の譲渡によって、その通行権が消滅し、民法二一〇条の通行権のみが認められることとなると、恣意的な譲渡により、一方的に既存の通行権を奪われたり、あるいは、別の土地に新たに通行権が生ずるなど、不合理な結果を来すことになるので、一旦生じた民法二一三条の囲繞地通行権は、袋地もしくは囲繞地の特定承継人に、そのまま承継されるものと解するのが相当である。
二、そこで、次に原告の有する通行権にもとづいて、通行すべき場所と範囲を定めなければならないが、前述のとおり、本件通路のうち、東半分にあたる幅二メートルの部分、すなわち被告植田所有の一三九番三の土地については、同被告は原告の通行権を認めており、その部分だけで幅員二メートルの通路が確保され、それだけの幅員があれば、一応公路への通路としての用をなすものともいい得るので、そのほかに、更に本件通路の西半分、すなわちその余の被告らの所有地にまで通行権の範囲を拡大することの当否が問題となる。
たしかに、二メートルの幅があれば、人の通行はもちろん、大型車は別として、普通の車両の通行も可能である。また、住宅用地としての効用を全うするうえで、建築法規上の建築基準適合性を考慮しても、建築基準法四三条の接道義務の関係については、本件通路が路地状通路となることにより、建物の敷地は、右路地状通路によって、公道に二メートル以上に接することになるから、一応この点も最小限の要求を充たすことになる。しかし、囲繞地通行権による通行の場所と方法は、通行権を有する者の為に必要にして、かつ囲繞地の為に最も損害の少いものを選ぶべきではあるが、同時に、袋地と囲繞地の各土地の沿革、袋地を生ずるに至った経緯、従前の通路および実際に行われてきた通行の状況、現在の通路の状況および通行の実情、各土地の地形的、位置的な状況など諸般の事情を考慮し、具体的な事情に応じて最も適当な通行範囲を定めるべきものである。本件の場合、前掲各証拠によって認められるように、囲繞地である旧一三九番二土地の所有者の訴外植田伊太郎は、原告との間で、本件通路部分に幅四メートル程度の道路を設けて、共同の通路として利用せしめることを約束し、実際に、その約束に従い、同訴外人は、旧一三九番二土地を分譲するにあたり、事実上四メートル幅の通路部分の空地を残して被告ら各分譲地を売渡しており、しかも、その売買契約の際、被告飯田、同島田、同岩本らに対して、それぞれ、各分譲地から本件通路部分にあたる幅六尺程度の土地を私道として提供してもらう旨説明し、各被告ともこれを了承のうえ、各分譲地を購入したものであること、本件紛争を生ずるまでは、原告も含めて、周辺居住者らが実際上共同の通路として利用してきたものであり、現在においても、本件通路は、四メートルの幅員の道路としての外観形状を備え、その通路の中で、東半分の被告植田所有地と西半分のその余の被告ら所有地とが特に区分されているわけではなく、一体として通路をなしているものであること、本件通路の東半分は被告植田の所有となっているが、本来は、旧一三九番二の土地の分譲地の取得者が、全員公平に中央寄りの六尺幅の部分を出し合って、共同の通路を開設することになっていたもので、東側分譲地から提供されるべき道路予定地を、便宜上一三九番三として分譲地から除外して残したものであり、もともと、本件通路は、東半分も、西半分も、全く同じ立場で共同の通路とされる筈のものであって、西半分の分譲地のみが私道負担を免れることは公平を失すること、その他前述のような袋地を生ずるに至った経緯や本件各土地の沿革その他の一切事情を考慮すると、四メートル幅の本件通路全部を、私道として、各隣接地所有者その他一般の通行に利用すべきものと認められる。被告飯田、同島田および同岩本各本人訊問の結果から窺われるように、右被告らとしても、同じ旧一三九番二土地の分譲地取得者同士の間では、本件通路全部を私道として相互利用することには異存があるわけではなく、ただ原告に対しては、土地の境界紛争や日頃の原告の言動に対する不快感などから、原告の通行を容認することに反撥しているところが見られるが、そのような感情的な対立と通行権の存否とは別問題であり、右に述べたような本件各土地の具体的情況のもとにおいては、原告地の所有者も含めて、本件通路全体を共同利用するのが相当であり、原告の通行権の範囲を、特に本件通路の東半分だけに限定すべき理由も必要も認められない。従って、原告は、本件通路全部につき、民法二一三条の囲繞地通行権を有するものと認めるべきである。
第四、原告の請求の当否
一、前項で述べたところにより、原告が本件通路に対する通行権を有するものと認められる。
二、《証拠省略》によると、昭和五二年三月下旬頃、右被告ら三名が、共同して、本件通路が原告地と接する境界線上の、別紙図面の矢印の位置に木の杭を打ち、その杭と杭の間に板を渡して杭に打ちつけ、本件通路から原告地へ進入する車両の通行を阻止する障害物を設置したことが認められる。右被告らの所為は、原告の本件通路に対する通行を妨げるものであり、原告の通行権を侵害するものといわなければならない。従って、原告の請求のうち、右被告ら三名に対し、右障害物の除去と原告の本件通路に対する通行妨害の禁止を求める請求、ならびに被告植田に対し、本件通路に対する通行権の確認を求める請求は正当である。
三、被告飯田、同島田および同岩本が、右のような障害物によって原告の通行を妨害したことは、原告に対する共同不法行為であるから、右被告らは、これによって原告の蒙った損害の賠償責任がある。
《証拠省略》によると、原告が原告地を購入したのは、自宅家屋を建築するためであり、昭和五二年三月一二日には建築請負の工務店とも契約書を交し、同年四月一一日付で県の建築確認も受け、同年三月初頃から基礎工事に着手していたものであるが、被告らの通行妨害により工事用車両の原告地への進入が阻止され、工事続行ができなくなったので、自宅建築を見合わせ、結局その後原告地での自宅建築を断念し、他に土地を求めて、そこにすでに自宅を建築したこと、原告地に建築予定だった右家屋のための設計料および建築確認申請料として、すでに一四万円を支払ってあったが、工事中止により、その支出が無駄になったことが認められる。従って、右一四万円の支出は、被告らの不法行為によって生じた損害ということができる。
また、右のように、被告らの通行妨害により、建築工事が続行できなくなり、原告地購入の目的が果せないまま、原告地をそれ以降事実上利用できずに放置せざるを得なかったことを認めることができるので、その間原告地を利用できなかったことによる損失も、また、被告らの不法行為により、原告の蒙った損害ということができる。但し、その具体的な損害額を算定することはできないので、土地の使用料相当額にもとづいて算定するほかはないが、被告らの右通行妨害の態様と程度に鑑み、原告地の占有が完全に奪われたわけではなく、原告による原告地の使用が全く不能であったとまではいえないことを考慮し、原告地の価格一〇〇〇万円(原告は時価一五〇〇万円として計算しているが、その時価を認めるに足る証拠はない。)に対する年五分の利回りによる使用料相当額の二分の一として、月額二一、〇〇〇円の損失とし、その二一ヵ月分合計四四一、〇〇〇円をもって損害額と認めることとする。
従って、右各損害額合計五八一、〇〇〇円およびこれに対する訴状送達の翌日である昭和五三年八月二三日から完済まで、民法所定の年五分の割合の遅延損害金の限度で、損害賠償請求を認めることとする。
三、原告は、被告植田に対しても、同様に損害賠償請求をしているが、同被告が、右通行妨害行為に加担しているものと認めるに足る証拠はないから、同被告は、他の被告らの所為について、共同不法行為者とはいえないので、同被告に対する損害賠償請求は理由がない。
第五、結語
以上の理由により、右のとおり正当と認めた限度で原告の請求を認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 高橋史朗)
<以下省略>